「皆さんは、アニメ“サザエさん”を知っていますね。そこでクイズです。サザエさんのお父さん、磯野波平さんは、何歳でしょうか?」
私が高校生向けのキャリア授業で、いつも最初に聞く質問です。正解は「54歳」。髪の毛が薄く、よく着物を着て、囲碁や釣りをしている、あのお父さんが54歳というのは、ちょっとびっくりですよね。今の54歳とは、ずいぶんイメージが違います。ちなみに、サザエさんも若くて、まだ24歳という設定です。24歳で、もう3歳の子ども、タラちゃんがいます。
これは、サザエさんのアニメが、昭和の中頃(約50年前)にできたためです。当時は、会社の定年が55歳、平均寿命が65歳くらいでした。波平さんは、あと1年で定年退職を迎え、幸せな老後を送る典型的な家庭のサラリーマンという設定でした。
昭和から平成を経て、令和の時代を迎え、世の中は大きく変わりました。平均寿命は長くなり「人生100年時代」と言われます。企業の定年は65歳から70歳になろうとしています。一方、グローバル化やテクノロジーの進歩で、企業の寿命は短くなり、約30年と言われています。
そのため、一流大学を出て、人気企業に入れば、一生安泰という人生設計(キャリアモデル)が、崩れてきています。多くの大人たちも、自分の将来に自信を持ちにくくなってきています。
この時代の変化に対応するため、文部科学省では近年、キャリア教育を推進し、小学生から大学生まで、社会に出るまでの期間に自分のキャリアを主体的に考えるような指導要領を推進しています。しかし、キャリア教育の歴史がまだ浅いこともあり、教育現場では手探りが続いています。
さて、このテキストは、高校生とその保護者、進路指導をする先生、キャリアコンサルタントの皆さんを対象にしています。
NPO16歳の仕事塾は、2009年の設立から12年、一貫して16歳の高校1年生または2年生を対象に、キャリア授業を行ってきました。多くの社会人がボランティア的に参加し、自分の経験からくるアドバイス、メッセージを高校生に送ってきました。
私はキャリアコンサルタントとして、大学生や若者の就職支援をしています。そこで感じるのは、就職活動を始めるとき、初めて仕事について考えるのでは遅すぎるということです。
就職活動を始めるには、次の質問に答えられる必要があります。
「自分はどんな仕事がしたいのか」
「自分はどのようなことに価値を感じるのか」
「自分は仕事を通じて、何を実現したいのか」
しかし、これらの質問に明確に答えられる大学生や若者は、多くありません。
その準備としては、高校生の頃から、次の質問について考えておく必要があります。
「世の中にはどんな仕事があるのか」
「自分は理系に進むか文系に進むか」
「どんな学部で何を勉強するのか」
高校生の時点で、将来の仕事についてはっきりとしたイメージを持つことは難しいかもしれません。でも、もう少し深く考えてから、大学や専門学校への進学を考えてほしいと思っています。
また、大学生や若者の就職活動においては、保護者からの時代遅れと思えるアドバイスの多いことも感じています。例えば、「安定した大企業や公務員を目指しなさい」とはよく聞く声ですが、どんな有名企業も、これからその若者が定年になるまで安定しているということは想像しにくい時代です。公務員も「仕事がラクで安心」という昔のイメージとは、かなり異なります。
私は、NPO16歳の仕事塾に出会い、この意義ある活動を、高校生とその周囲の大人たちに広く紹介したいと考え、仕事塾の理事長である堀部伸二氏と一緒に、このテキストを執筆しました。
高校生からの質問に対しての回答の形式で書いてあります。キャリアについては、学校の勉強のような「正解」や「模範回答」はありませんので、あくまでも「回答の一例」です。
Q&A形式なので、どこから読んでいただいても構いません。この本が、皆さんの将来の進路を決める参考になることを祈っています。
2021年2月
山岸 慎司