実践 サプライチェーン・マネジメント(SCM)

第6部 グローバルSCM(1)

著者:原 吉伸

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「はじめに」
サプライチェーン・マネジメント(SCM)は、販売、調達・生産、物流などの各機能が“部分最適”に陥るのではなく、外部の取引先を含むサプライチェーン全体が連携して、“全体最適”を実現することの必要性から生まれた経営管理手法である。

SCMのコンセプトは2つ。「部分最適から全体最適へ」と「規模の経済性からスピードとネットワークの経済性へ」である。中小・中堅企業は、「スピードとネットワークの経済性」を取り入れる素地を持っているので、SCMを導入することは、在庫削減や欠品防止、コスト削減などの具体的で、大きな効果が期待できる。

SCMプロジェクトの経営改善目標には、ROA(Return on Asset:総資産利益率)が使われる。ROAは「限られた資産からいかに最大の利益を上げるのか!」という経営指標である。営業利益を増やすか、総資本(総資産)を小さくするか、この2つのいずれか、又は両方の改善に取り組むことになる。

大きな効果をもたらしてくれる一方で、SCMの実現を難しくしている要因は2つある。1つは不確実性にどの様に対応するのか?もう1つは、需要と供給をどの様にバランス(需要量=供給量)させるか?という課題である。

もし、需要の変動や内部環境の変化(例えば、工場内の設備故障や作業者の突然の休暇)などの不確実性が全くない状態であれば、SCMを深く考える必要はない。例えば完全受注生産のマネジメントが適切に行われていれば、在庫増大、欠品発生、ロス発生などの心配はいらない。

しかし、通常は季節変動や天候等の自然環境変化、オーダーの変更、及び不良品の発生など不確実な要素があり、こうした状況下でどの様に対応すべきか?つまり、在庫を最小にしながら、需要と供給を一致させるにはどの様な対策が必要か、という課題である。

よって、「見える化」と「リードタイムの短縮」の2つがSCMの研究課題として認識されている。「見える化」は、情報共有化や全体最適を実現するためのスタートラインである。一方の「リードタイム短縮」はサプライチェーンを構成する企業全体で「スピードとネットワークの経済性」に欠かせない要素である。 在庫を削減したり、ボトルネックとなっている生産工程を見直したり、サプライチェーン上の問題点を改善するためには、まず問題の所在を明らかにする必要がある。生産オペレーション現場での課題ばかりではなく、経営上の課題も「見える化」する。生産現場では、原価のことを考えずに作業する人が多いし、幹部社員でも部材の購入単価や生産数量など数量は把握しているが、原価管理を実施している人は少ない。

例えば、以下の質問に答えられるだろうか?
 ・自分の部署は全原価の○○%を占め、そのうち労務費が○○%、材料費が○○%となっている。
 ・この作業は通常○○時間で完了しており、当部署の工程リードタイムを○○時間(%)短縮することは、原価を○○%削減することになる。

現場の「見える化」には、経営指標(ROAや製品別・顧客別・部門別営業利益など)や経営状態(年平均成長率、営業利益率など)を現場に見える様にすることが大切である。もし、実施されていないとしたら、経営側にも問題がある。

また、製品のライフサイクルが短くなっており、顧客の納期短縮の要求もある。顧客が要求する納期内に製品を作って納入できれば何も問題ではないが、通常は短納期に対応する為に在庫を持つ。しかし、トヨタ生産方式に代表されるように“在庫は悪”との考え方もあり、出来る限り在庫を持たないで短納期に対応しようとすれば、リードタイムの短縮や需要予測の精度を向上させることが必須である。

特に、リードタイムの短縮が重要である。生産リードタイムばかりでなく、受注から納入までのトータルリードタイムの短縮が、需要に供給を限りなく近づける方法として日々研究されている。

SCMは、在庫を減らし、リードタイムを短縮して、結果としてキャッシュフローを増大させることを目指す手法であると言える。

そして、近年、グローバル化が進展し、それに対応した「グローバルサプライチェーン・マネジメント(GSCM)」が注目されている。

「グローバルSCM」は大手企業が先行している。特にリーマンショック以降、自動車業界や電機・電子業界が海外移転を加速させ、現地調達比率が急速に高まった。多くの部品・素材メーカが大手完成品メーカの要請に応じる形で海外進出を進めた結果である。

これに対して、人材面や資金面で課題を抱える中小企業は容易に海外進出ができない。中小企業にとっては、まず、海外展開すべきか否かという問いが存在する。国内市場が成熟化し、縮小すると予想される状況下で、中小企業はどの様にグローバル市場を捉えるべきか、という課題である。

一方の中堅企業は、主要な顧客である日系企業の海外進出の要請に応える形で海外進出を果たしたものの、日系企業の現地化が急速に進むとき、日系企業以外のグローバル企業や現地企業との関係構築をどの様に進めて行けば良いのか、という課題を抱えている。

第6部~第8部は、2014年9月~2014年11月にかけて、経産省が2014年3月に認定した「グローバルニッチトップ100企業」の内、東京・神奈川地域の9社へのインタビューの調査結果を掲載する。第6部と第7部は調査結果を、第8部は考察を記述する。

第6部~第8部を読み終えると、中小・中堅企業に勤務する人は、経営課題であるグローバル市場の見方・捉え方、攻略方法に関して、大手企業に勤務する人も、グローバルニッチのコンセプトの重要性やグローバル市場攻略に関して、考えを整理できると思う。 
「目次」
はじめに
第1章 調査概要
   調査目的
   調査対象企業
   調査対象企業の特徴
   調査方法・内容
第2章 調査結果
   調査結果のサマリー

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