プロ社員を作るためのコンピテンシーの意義と活用

著者:綱島邦夫

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先日、NHKの「奇跡のレッスン」という番組で米国のプロ野球メジャーリーグの伝説的な大投手であったランディ・ジョンソン氏が来日し、少年野球のコーチをしている様子が紹介されていました。ランディ・ジョンソンといえば2メートル8センチの長身から投げ下ろす164キロの剛速球と切れ味鋭いスライダーを武器に通算303勝をあげた大投手です。その彼が、少年達に正しいフォームを身に着けるための地味で単調な基礎作りの大切さを繰り返し伝え、反復練習をさせるのです。私は、ランディ・ジョンソンは恵まれた体格(天賦の才能)を武器に勝利を重ねた投手だと思っていたので、彼のしつこいほどの指導の有様に私の眼はくぎづけになり、時間が立つのを忘れるほどでした。切れのある球や速い球を投げようと意識してはいけないと言うのです。それは結果である、原因は正しいフォームだと述べています。

彼の話を聞きながら、日本のある野球選手の鬼気迫る練習の風景を思いだしました。世界のホームラン王となった王貞治選手の日本刀で天井からぶら下げた短冊を斬る練習です。日本刀は上から下に刀を動かさないと力が伝わらずに斬れないそうです。それでダウンスイングの訓練に日本刀を使ったとのことです。

2019年の夏、全英女子オープンで日本の新鋭、渋野日向子選手が優勝したことは記憶に新しいことです。樋口久子選手が全米女子プロで優勝してから女子ゴルフのメジャー大会で日本人が優勝したのは42年ぶりとのことでした。私が見ていた衛星放送の解説者は偶然にもその樋口さんでした。彼女は渋野さんの微動もしない下半身、とくに膝の位置が全く変わらないことに感服していました。素人の私が見ていてもそのことはよく分かりました。渋野さんは3日目の終了時点で二位のアシュリー・ブハイ選手に二打差の単独のトップに立ち、その晩はマスコミとの記者会見で相当の時間を使っていました。しかし、その後、自分の宿舎に戻るのでなく、白夜の続く8:30までパターの練習を続けていたそうです。練習場に最後まで残った一人であったそうです。

優れたスポーツ選手は皆、日々、厳しい練習を続けています。スポーツ選手だけでなく、アーティストもそうです。世界的なピアニストであり、生涯を通じて3500回を超える公演を行った中村紘子さんは毎日、6-7時間の練習を課し、一日、練習を休むと躰が元に回復するまでに1週間もかかると言っていました。何故、彼らは練習をするのか。何がモチベーションなのか、私にはあまり理解できませんでした。

その答えをある歌舞伎の役者さんから聞きました。それは一流になる為には何事も形が重要で、形がないことを「形無し」、すなわち役に立たないものというとのことでした。そして超一流の役者は「形破り」をして新しい形を作るというのです。修行で自己を鍛え、悟りを開くことを目的にする禅の影響を受けた日本の武術や芸能の世界には「守破離」という言葉があります。「守」は既成の形を学ぶ、そして「破」はその形を超えること、「離」は新な独自の形を作るということです。より良いフォームを求めて練習、練習、練習、そして試合、反省、また練習、練習、練習・・・、ランディ・ジョンソンの姿勢はすべての優秀なプロフェッショナルに共通な形なのだと思います。

そのように考えると日本の企業で働く社員だけが私には異質の存在に見えてしまいます。学校教育を経て新人として就社する。そして様々な職場に会社の意向で配置され、30歳ころから特定の分野でキャリアを積み上げていく。個人が自らの意志でキャリアをマネージすることは日本企業では難しいことでした。プロフェッショナルとして形を学び、形を破り、独自の形を作り、一流の人材に育つというプロセスがほとんど観察されないのです。日本のマスコミではプロ経営者という不思議な言葉が使われます。経営者は本来、全員が経営に関する一流のプロフェッショナルであるはずですが、敢えてプロ経営者という言葉があるのは、多くの経営者はプロではないという見方の裏返しなのだと思います。

世界的に有名な社会学者であったピーター・ドラッカー氏の著作に“The Essential Drucker on Individuals: To Perform, To Contribute and To Achieve”という本があります。邦題は「プロフェッショナルの条件」です。この本の中でドラッカーは知識労働者がプロフェッショナルとしてどのように成長し、自己実現をしていくのかを書いています。この本を読みながら、日本企業で働く中でこの条件を満たすことは相当に難しいと感じた次第です。

本書では日本が長期の停滞を続けてしまった平成の時代、資産不況に苦しんだ1990年代、日本のGDPがゼロ成長を続けた2000年代、GAFAに代表される欧米のネットワーク企業に日本企業が翻弄された2010年代を振り返り、プロフェッショナルを育てる為に、何がなされ、何がなされなかったのかを反省したいと思います。その上で、令和の時代に日本企業とそこで働く日本人が一流のプロフェッショナルになる為に何をすべきか、提言します。
著者略歴
綱島邦夫慶応義塾大学経済学部、米国ペンシルバニア大学ウォートンスクール(MBA)卒業。野村証券の営業・企画部門でのキャリアを経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーNY事務所に入社。世界のグローバル企業の戦略策定のコンサルティングに携わる。マキンゼー卒業後は、ラッセル・レイノルズ・アソシエイツ及びCSC(コンピュータ・サイエンス・コーポレーション)Indexの日本支社長を歴任。現在は個人事務所である経営力研究所を主催するとともにコーン・フェリー(米国に本社を置く組織・人事コンサルティング会社)のシニアパートナーを務める。企業が成長を続けるための組織ケイパビリティの重要性に着眼し、その開発のためのコンサルティングに欧米、日本、中国を含む世界各国で取り組んでいる。
また、ウォートンスクールのExecutive Education Boardの日本人理事として経営人材教育のためのプログラム開発へのアドバイザーの役割を務め、世界各国の学生を集め、毎年、春に日本で開催されるJapan Programの運営に貢献している。
著書には「強靭な組織を創る経営」、「役員になる課長の仕事力」(日本能率協会マネジメントセンター)、「事業を創る人事」、「エグゼクティブの悪い癖」、「社員力革命」(日本経済新聞出版社)、及び「成功の復讐」(日系BP社)などがある。

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