「レバレンス・ロスト」という1987年にアメリカで刊行され、会計関係者に少なからぬ衝撃を与えた本があるが、現在、アメリカやわが国で使われている原価計算方法について、痛烈な批判を加えた。現在のようなやり方、つまり「伝統的原価計算」に固執していると、製造間接費を製品に配賦するときに適切な処理ができないから、誤った製品原価が計算されてしまう。「こんな陳腐化したやり方は止めよう」と、言うのだ。
また私は前回第5部で、「伝統的原価計算」の第3の問題点として「発生原価の計算が間接的になるから、原価の発生源を突き止められない」と指摘した。その場合、「間接的とは、当期の製造原価を期首仕掛品原価に当期税増費用を加えて期末仕掛品原価を引いて計算するというやり方を指す。これでは原価の発生源が定かにならない。では、どうしたらよいのか?
代案も出さずに他人の意見や考え方を批判ばかりしている人がいる。テレビのコメンテーターにはこの種の人が驚くほど多い。しかし、著者の一人であるキャプラン先生は、ちゃんと代案を用意していた。それが、今回取り上げるABC(活動基準原価計算)である。
1980年代半ばにハーバード・ビジネス・スクールのロバート・キャプラン(Robert. S. Kaplan)教授は批判ばかりではなく、ユニークな原価計算手法を提唱した。「活動基準原価計算」(Activity-based Costing, 頭文字をとってABC)である。その狙いは、伝統的原価計算に重大な欠陥を正すとにあった。伝統的原価計算との違いについてはあとで詳しく見ることにして、まずはその背景、概要について説明しよう。