経営会計の全体イメージの俯瞰と原価計算に関する言及したところでいよいよ各論部分に入る。その手始めは、固変分解とCVP分析だ。経営会計の「玄関口」ともいうべき「最初の第一歩」である。「固変分解、CVP分析なくして経営会計なし」と言ってもよいぐらい重要な概念であり、スキルである。
費用を「変動費」と「固定費」に分けて対応するという「固変分解」は経営会計的対応の定番であるが、財務会計にはこうした考え方はない。
アメリカにおける原価計算の歴史を著した文献(D. Solomon著「原価計算発達史」)によると、1860年代後半、当時、ルイスビル・ナッシュビル鉄道の上級副社長であったフィンク(A. Fink)という人物が自ら考案した会計システムの中で、費用の発生態様に応じて固定費と変動費に分類して計上したのが、固変分解の最初である、とされている。日本で言えば、ちょうど明治維新の頃のことである。
固変分解することによって「限界利益」という利益概念が生まれるし、お馴染みの「損益分岐点分析」が可能になり、企業の利益構造が解明できるようになる。この損益分岐点を探す分析は、経営会計の「定番中の定番」になっている。わが国では「損益分岐点分析」という呼称が定着しているが、国際的には、もう少し分析対象を広く採ってC(費用)、V(営業量)、P(利益)の3者間の関係を分析する「CVP分析」("CVP Analysis")という呼び方が一般的である。