前回の第17部で予告したように、今回は実際に「企業価値」の推定計算について例を挙げて説明する。
企業価値を推定するには色々な手法があり、今回説明するやり方が唯一絶対的なものではない。実務の世界でも証券アナリストや各種ファンドのファンド・マネジャーたちは各自、それぞれの経験や知見に基づき、様々な工夫を凝らしてこの作業を行っている。今回は、予想期間中の財務諸表(予想財務諸表、"proforma financials")を作成して将来フリーキャッシュフローを推定し、これを企業価値の測定につなげるという最もオーソドックスな手法について説明することにする。
ところで企業経営の場では、往々にして、将来(例えば来期)の財務状況がどうなるかが問題になることがある。予想財務諸表が作成できれば良いのだが、このプロセスが一筋縄ではゆかずに苦労させられることが多い。それではこの辺について参考になる良い解説書があるかというと、意外や意外で、あれほど本屋の店先を賑わせている会計本の中にも殆どないのが実情だ。何故この種の解説書がないのか、確たる理由は分からないが、ひとつには、わが国の財務諸表がかなり複雑な「構造」になっていて、一般化や単純化が難しいため、と考えられる。私も以前、先輩から「予想財務諸表作成法」について教えを受けた経験がある。「一子相伝(?)の秘法だぞ!」という御大層な触れ込みだったが、正直、あまり役には立たなかったのを覚えている。結局、ニューヨーク出張中にたまたま手に入れた解説書を参考に私なりの手法をマスターした。その時の経験から学んだことだが、複雑な構造をしている財務諸表をどこまで「単純化できるか」、あるいは「単純化してしまうか」が予測作業の重要なカギになる。私の場合にはアメリカ流の単純化が役に立ったわけだ。「予測」は、所詮、「予測」でしかない。細部のこだわっていると「木を見て森を見ない」落とし穴に嵌まってしまい、方向感を見失う危険性がある。
今回は、「企業価値」推定プロセスの一環としてこうした予想財務諸表の作成過程についても説明するので、この際、こうしたスキルについても併せてマスターしてしまうことをお薦めする。折角だから、第17部でも取り上げた"EBITDA"を使ってみよう。