公務員の働き方改革(能力評価編)

第1部 公務員の職場とは

著者:行政コンサルタント 吉田 孝

「はじめに」
「役所仕事だから仕方ないだろう」とか、「公務員は待遇がよくて楽そうだ」とか、筆者の周りではよく聞くことだ。しかし、筆者の知っている公務員は、現役であれOBであれ、国家公務員であれ地方公務員であれ、概して真摯で一所懸命な人が多い。どの組織にも存在する一部の人たちを除いては手を抜いているように思えないし、不真面目だとも感じられない。しかし、彼らが所属している役所の仕事は、効率的にはあまり見えないし、スピーディーとはとても言いがたい。このギャップを解き明かし、そうした役所(公務員組織)の中で、どうしたら成果をあげる働き方ができるか。自分でもよくやったと納得でき、関係者も満足できる結果を出す、そうした働き方に導くのがこの講座の目的だ。

具体的には、筆者が現役やOBの公務員へインタビューし、彼らの実際の経験の中から、成果をあげた働き方で、彼らがどのような能力を発揮したのかを明らかにする。ここで言う能力とは、講座『能力のプロファイリング編』と『キャリアプランニング編』で詳しく説明されており、(社会的)動機、価値観、コンピテンシー、スキル、知識を統合したものだ。その意味では、この講座を読むと同時に講座『能力のプロファイリング編』と『キャリアプランニング編』を読むことをお勧めする。その一部は無料公開されており、そこだけ読んでも役に立つことは間違いない。なお、この講座においても第3部を中心として、能力とは何かについて解き明かしたい。

そして、こうした「具体的な成果をあげた」事例を俯瞰する中から、公務員がどういった能力を開発すべきなのか、ついで能力を開発するには具体的にどうしたらよいのか、大きく分けてこの二つを示したい。なお、筆者の経験範囲から地方公務員を取り上げた事例が多くを占めるが、その内容は多くの国家公務員にも共感できるだろう。

さらに、組織における役割(成果責任)の違いを前提として、一般職員(スタッフ)としての能力と、管理職(リーダー)としての能力に分けて論じる。一般職員は係長未満を指すが、勤めはじめてから間の無い新入職員にもわかりやすいように書き進める。また、管理職は部下を使う立場にあるという意味で、概ね係長から課長までを指すが、部長以上にも十分応用できるだろう。

加えて、この講座が本来担うべき合理的な能力開発とは別に、そうした能力開発を行っても、なお向き合わざるを得ない矛盾や困難とどうお付き合いをすべきか、についても、具体的な事例を示すことで読者の参考にしたいと考えている。その意味では、公務員へ向けたこの講座は、類似の仕組みや体制を持つ公的な団体や半官半民の組織、あるいは"役所病"に侵されつつある民間企業の人たちにも十分参考となるだろう。あえて言えば、公務員はわかりにくい、付き合いにくい、敬遠するのが一番と考えている多くの人たちにとっても、「なるほど、公務員の社会って実はこういうことなんだ」と合点が行き、公務員とぎくしゃくせずにコミュニケートするための手助けになるだろう。

さて、公務員の仕事とは、さまざまな矛盾を抱えた制度の中で砂を積み上げるようなものだ。幾多の先人は、積んでは崩れ、崩れては積む作業の中で孤独と無力感を味わい、極端な場合は精神的に病み、あるいはスピンアウト(早期転職)へ追い込まれた事例も少なくない。この講座がそうした虚しさの連鎖から抜け出し、"役所"で成果をあげるための道筋を指し示すことができればと願っている。最後に、困難な立場にも関わらずインタビューへ応じてくれた現役公務員の皆さんへ感謝するとともに、この講座における責任の所在はすべて筆者にあることを明示しておきたい。
「目次」
第1章 公務員組織の制度的限界
  やる気の出ない給料表
  クビになる(懲戒免職と分限免職)
  規律性の欠如
第2章 複雑な利害関係者
  首長(都道府県知事や市町村長)
  "住民の代表"を自負する多種多様な議員
  住民(主人公ではあるがあまねく把握するのは至難の業)
  困難な評価基準(どこに基準を置いたらよいのか)
第3章 醸し出される組織風土
  蔓延する"ことなかれ主義"
  没法子(メイファーズ、諦めて歩みを止めるな)
終わりに
理解度チェックテスト
振り返り
第1部の振り返り
第2部のこと
補章 霞が関を構成する"キャリア"
  いわゆるエリート公務員
  特別扱いから生じる弊害

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