企業会計番外編

第7部 「TPS」を「会計する」(その1)

著者:宇野 永紘

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「はじめに」
 「会計する」などという日本語はない。私の勝手な「造語」である。例えば、「電話する」などという日本語も電話がなかった時代にはなかったはずだ。電話の普及で新たに造られた言葉である。今どきの「メールする」などという言い方も同じである。
 特定の名詞に対して、それを「利用する」とか、「活用する」の「する」を加えた日本語特有の表現法である。「会計する」とは、「会計スキルを使う」という意味であり、英語で言えばさしずめ、"account for"といったところだろう。昨今、"accountability"(説明責任)などという言葉が使われることが多いが、"account"という英語にはもともと、「説明する」という意味がある。「会計する」とは、「会計という側面から説明する、解明する」というぐらいの意味である。

 もう随分と昔の話になるが、当時、私が教職にあった専門職大学院の有志(教員、卒業生、現役生)で豊田市内のトヨタ自動車の元町工場を訪れ、「TPS」(トヨタ生産方式)の実態に触れる機会があった。TPSとは、大野耐一さんというトヨタの伝説的カリスマ・エンジニアが大成したとされている「組立作業方式」の一種であり、今やアッセンブリー業界では「世界標準」になっている。別名、「カンバン方式」とか「ジャスト・イン・タイム(JIT)方式」などと呼ばれることもある(その内容については、補記1を参照して欲しい)。

 ところで、TPSを「在庫ゼロ」の生産方式とする見方があるが、これは正しくない。
 実は、私もそのように誤解していた一人なのだが、この工場見学の直後に開催された「勉強会」の講師をお願いしたSさん(実際に大野さんの薫陶を受けた直弟子エンジニア)から伺ったところでは、「在庫ゼロだったら,モノは造れません」、「ある程度の少量の在庫は『安全操業』の維持には欠かせません」という。ちなみに、この種の「少量の在庫」のことを「安全在庫」というのだそうだ。

 このSさんとの対話がきっかけになって私はTPSを会計的な側面から分析してみようと考えるようになった。Sさんによれば、ある時、レジェンド大野が工場経理スタッフの「言い分」に腹を立て、こうした「会計屋」たちを生産現場から追い出してしまったという。どうやら、TPS誕生の裏に「会計」が関わっていたらしいことが妙に気になったからだ。大体、「経理屋」とか「会計屋」というのは「現場」のスタッフからは嫌われることが多い。「価値観の違い」とまでは言わないが、会計・経理の「論理」が必ずしも生産現場のそれとは同じではないということに起因する。例えば、これと似た話が稲盛和夫さんの著書である『実学、経営と会計』にも出てくる。

 TPSについて「生産管理」の側面から光を当てた書物は枚挙にいとまがないのだが、会計の光を当てたものは驚くほど少ない。
 そこで、TPSを「会計する」というのが今回のテーマである。
「目次」
「在庫」とは?
「期末在庫」を増やすと利益が増える?
「財務会計」(全部原価計算)では
「在庫増」は「資金負担」を増やす
TPSを導入する
「利益ポテンシャル」という考え方
「直接原価計算」でみたら・・・
補記

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