前回の第7部では、「全部原価計算」をベースにした現行の財務会計と「部分原価計算」である「直接原価計算」に基づく会計手法それぞれをもちいてTPS導入が会計に及ぼす影響について分析し、その結果を比較してみた。しかし近年、「直接原価計算」をさらに発展させたものと位置づけてもよい「スループット会計」という新しい手法が注目されるようになっている。小説「ザ・ゴール」の中で展開された所謂「制約理論」("Theory of Constraints",TOC)にもとづく経営(管理)会計手法である。
「制約理論」("Theory of Constraints,TOC,「制約条件理論」と訳されることもある)の提唱者であり、「ザ・ゴール」の著者であるゴールドラット(A.M.Goldratt)の会計理論は、その後、彼の理論を信奉する人たちによって精緻化され、「スループット会計」と呼ばれる会計手法に発展した。
この部ではこの「スループット会計」を使ってTPS導入による改善成果を測定してみたい。
ところで、会計手法が何であれ、その対象になるビジネスそのものはひとつである。だから、そのビジネス行為で発生する「キャッシュフロー」もひとつしか存在しない筈であり、たとえ会計手法が違っても、すべて同じにならなければおかしい。TPS導入による「キャッシュフロー効果」も、会計手法(原価計算手法)の違いに拘わらず、すべて同じになる筈である。そのあたりについても検討してみよう。
「全部原価計算」、「直接原価計算」、「スループット会計」という3つの異なる会計手法が使われるようになった歴史的背景をなぞってみると、この3者間には興味深い関係というか、何やら因縁めいた「繋がり」があることが分かる。そこには、AがBを誘発し、そのBがCに「止揚する」という弁証法的な「会計版進化論」とも言えるような発展プロセスが認められるのだが、果たしてその行き着く先は何か? 意外というか、当たり前というか、面白いことがわかる。