前回の第9部では「キャッシュフロー」や企業価値の源になる「フリーキャッシュフロー」について説明した。こうしたキャッシュフローの「動き」を整理した書式が財務諸表のひとつである「キャッシュフロー計算書」である。私たちシニア世代が若い頃の財務諸表と言えば、「貸借対照表」と「損益計算書」の2つしかなかった。しかし、1999年3月の法改正によって、株式を公開している会社、つまり株式市場で広く不特定多数の人々から資金を募っている会社は、2000年3月以降の決算時に「連結キャッシュフロー計算書」を作成・公表しなさい、という「証券取引法」(現在の「金融商品取引法」、「金商法」と略されることが多い)の定めによって、その作成・公表が義務づけられた。
しかし、この法改正に先立つ98年6月、日本公認会計士協会から「連結キャッシュフロー計算書に関する実務指針」が発表されたときのことである。当時、私はある銀行系のシンクタンクで経営コンサルティング業務に関係していたのだが、この「指針」なるものを見て、途方に暮れてしまった。それまで見慣れていた「キャッシュフロー計算書」とは明らかに異なる書式になっていたからである。
大学院の授業で「キャッシュフロー計算書」を取り上げると、決まって、学生さんから質問が飛び出す。どう対応したらよいのか、分からないというのだ。
①「間接法」による「営業活動によるキャッシュフロー」の計算起点が、何故、「税引前当期利益」になるのか?「税引後当期純利益」ではないのか?
②何故、「受取利息」、「支払利息」が「小計蘭」を挟んで2度も登場するのか?
③途中で「小計」を計算する意味が分からない。
実際、これら3つの点は、私にとっても理解に苦しむ「謎」であった。世の中に出回っている「解説本」にもこの謎に対する答えをまともに取り上げた本は、私の知る限り、皆無である。これも不思議と言えば、不思議だ。
今回は、こうした「謎」や「不思議」に迫るとともに「キャッシュフロー計算書」を扱う上で気をつけるべき点について、私なりの所見を述べてみたい。