最近、久し振りにこれはという斬新でユニークな会計書に巡り合った。
田中靖浩さんの「会計の世界史」(日本経済新聞社)である。私と会計の関わりあいを承知している知人がわざわざ贈ってくれた本である。
「世界史」と銘打っているもの、副題に「イタリア、イギリス、アメリカ―500年の物語」とあるように、イギリスを含めた欧米先進国における会計発達史である。徳川家康は登場するものの、残念ながら日本の会計に関する話はまったく出てこない。そのユニークさは著者の豊かな歴史知識、とりわけ美術や音楽に対する深い教養と鋭い洞察力をベースにして「会計」という全く異なる分野を俎上に乗せ、その発展プロセスを解き明かすというアプローチの見事さにある。レオナルド・ダビンチに始まり、エルビス・プレスリー、ビートルズやマイケルジャクソンまで登場させるという見事な展開には驚くほかない。
私自身、会計理論や手法を理解する「秘訣」は、その「歴史」、つまり「由来」を学ぶことだと考えている。その意味で言えば、友岡賛さんの「歴史にふれる会計学」(有斐閣アルマ)は、私の「会計理解」を飛躍的に深めてくれることになった。田中さんや友岡さんの著書の「素晴らしい」(?)ところは、会計書には必ずといってよいほど登場する(登場せざるを得ない)B/SやP/Lといったあの面倒な書式が一切、出てこないという点である。
機会があれば、あなたにも是非読んでもらいたい。
田中さんの著書に戻ろう。
例えば、1900年頃にアメリカで始まった「管理会計」(私流にいうのなら「経営会計」)と「シカゴ・ジャズ」の話(本書の第3部)などは、まさしく秀逸で、「参りました」としか言いようがない。学生時代に当時ジャズ愛好家の誰もが夢中になっていた「ビーバップ」などの所謂「モダンジャズ」ではなく、「ニューオルリンズ・ジャズ」や「シカゴ・ジャズ」が好きでたまらなかった私としては、言いようのない懐かしさを感じるとともに、「管理会計」誕生の時代背景が改めて分かった次第である。
世界最初の「株式会社」である「オランダ東インド会社」の誕生と画家のレンブラントを絡めた第3章も示唆に富んでいる。しかし、ここでは田中さんがあまり深入りしなかった「期間損益」とそれに関連した会計手法である「クマのミミ」について考えてみる。
だから、今回の話は、田中さんの了解を得たわけではないが、同氏の著書にたいする補足説明、つまり、「副読本」のような内容になる。