第1部において「経営において技術を有効に活用し企業価値増大に結びつける」ためのベースについて考えてきた。特に研究開発マネジメントとテクノロジーマネジメントの違い、さらには真のイノベーションの意味とあり方などを再認識していただけたはずである。
そこで今回から具体的にテクノロジーマネジメントとは、何を、どうすることなのかについて考えることとする。単純化すれば“人”“物”“金”“情報”“技術”という経営資源を入力として、効果的にかつ効率的に製品もしくは事業という出口に結びつけるにはどうしたら良いかについて考えることである。 そこでまず、実際に適切なテクノロジーマネジメントを推進するためにはどのように考え、どのようなことを進めればよいのか、またその際にはどのようなことに留意すべきであるのかなどについて考えることとする。このようなことを考える際の考え方であるが、多くの企業は既に何らかの形で研究開発活動を実施してきているわけであるので、実際には新たにゼロから何かを構築するということではなく、改革活動になることがほとんどである。実際、筆者は戦略経営コンサルタントとして、多くの企業の研究開発関連活動などに関するプロジェクトなどに関与してきたが、ほとんどがこのようなケースであった。
ここで注意していただきたいことがその進め方である。当たり前のことなのであるが、何が問題なのかの現状の問題・課題などを的確にとらえて、その原因の確認、そしてその解決策の検討への進めることがセオリーである。しかしながらこれが多くの企業でできていない。特に入口の、現状の課題・問題などを的確にとらえるという作業が抜け、直接解決策に飛び込んでいるケースに良く出会う。これでは関係者の認識および解決へ向けてのベクトルを揃えることができず、改革活動自体をうまく進めることができなくなることが多いので、本章ではこの課題の摘出の進め方から議論している。
ここでは課題の摘出に際の視点のモデルおよびその具体的な作業の進め方などについても議論している。「実施しやすさ」と「期待効果」の両視点から考え課題摘出への取り組みを決める必要がある。ここで重要なことは「実施しやすさ」に偏重しないことが重要である。多くの日本企業は、これまでにできることを中心に対応してきているが、その結果が現在の姿である。ということは、これから取り組まなければならないのは、大変であるが効果が大きいという諸施策であるということを認識する必要がある。
またここで掲げているSTIDECモデルは、筆者が多くの企業のコンサルティング活動で出会った課題をまとめた時にこのモデルに集約できるという経験則から構築したものである。大事なことは課題を可能な限り定量的に把握しておくことである。こうしておくとにより、改革運動に取り組んだ際に効果を定量的に検証することができるが、これがないと、改革の効果を明示できず抵抗勢力から改革の負の面を指摘された際への対応に苦慮することとなる。
次に原因の理解と解決策の検討モデルであるSPROモデルはテクノロジーマネジメントに限ることなく企業活動の全般にわたって適用可能な汎用モデルである。経営活動のすべてはこのどれかに属することであり、抜けがなく重複もないいわゆるMESEの関係にある。特に実際のテクノロジーマネジメントにおいては、各種の制度を工夫することにより効果、効率を高める試みがなされているが、世の中のマネジメントに関する研究、書籍などにおいては戦略面からの取組みに偏重しているように感じる。そもそも本書の執筆の発端となる動機は、ここでの制度面(P)からの取組みを多くの企業の方々に参考にしていただきたいというところにあったのであるが、その考え方にいたったのもこのSPROモデルの存在がある。
SPROの各論について述べることが本書の主題であり、それを次回以降で展開するのであるが、テクノロジーマネジメントの理解への入り口として、全体の流れなどについて理解をしておいていただくことが今回分の主たる目的である。
なおここで技術資源分析について少しコメントをしておきたいと思う。多くの経営幹部が自社技術の客観的な評価に興味を持っていて、「自社の技術を客観的に評価をしてほしい」という要望がコンサルタントにある。この時に注意してほしい事であるが、重要なのは現在活用できている技術そのものの評価ではなく、その技術を生み出している技術資源であるということである。というのは技術資源は経営資源として今後の価値創出の武器になるが顕在化している技術は過去の産物であり今後の経営資源とはならないものであるからである。
また技術資源のとらえ方についても、各種の技術便覧にあるような学術的な視点からではなく、技術の保有する機能ベースに考えることが企業においては有効であるという点にも触れているので正しく理解していただきたい。このような機能ベースの技術のとらえ方ができるようになると、競合関係にある代替技術もしくは新規に開発される先端技術にも目が向くようになるし、技術者がカバーする対象技術領域が広がり、技術者の機能的・流動的な活用がしやすくなるのである。