ここまでの部分でテクノロジーマネジメントに関する考え方や具体的な進め方などについて紹介してきた。
今回分が最終回分となるが、対象は第3部のタイトルが「テクノロジーマネジメントの拡張」となっているように、研究開発活動がベースとなり、密接な関係がある事柄について述べることとする。
まず新規事業は日本企業における研究開発活動の目的の非常に大きな部分を占めているものである。そこで新規事業の経営戦略上の位置付けを再確認した上で、具体的な新規事業戦略の考え方、進め方、成功するためのポイントなどについて触れている。筆者のコンサルティング経験からも、新規事業の成否はどのような事業に取り組むかという“WHAT”の問題だけではなく、というよりはどう取り組むかという“HOW”が非常に重要であるということを感じているので、この点も重視して取り扱っている。
次に研究開発活動におけるマーケティングについて取り上げている。本書においても繰り返し述べているように、現在の価値創造活動は市場ベースの発想が重要であり、そのためには市場動向の理解が重要であるので、市場動向を理解する活動であるマーケティング活動は価値創造活動の一部であり、非常に重要な役割となっているからである。本文の中では結論として、研究開発技術者自身が最も優れたマーケッターであることが示されているし、現在の先端分野における研究開発活動の実態からもマーケティング活動と実際の研究開発活動が表裏一体として不可分のものとなっている故に、研究開発技術者がマーケッターの機能を果たすことが求められていることを示している。
しかしながら多くの研究開発技術者は顧客と直接交流することに慣れていないという実態を理解した上で、研究開発技術者のマーケティング機能を強化するための取組みについてのアドバイスもしている。
続いて知的財産マネジメントについて検討しているが、ここでは経営幹部が考えるような知的財産戦略的な面とか、逆に極めて日常作業的な特許出願などのテクニカルな面について議論しているのではなく、研究開発技術者にとって研究開発活動を進める際に留意すべきことを中心に触れている。同時に技術/事業の評価法の本質にも関係することであるので知的財産価値の評価方法についても触れている。
今回分で新規事業と並んでページを割いているのはアウトソーシングについてである。研究開発活動におけるアウトソーシングとは、現在の価値創造活動の最重要ポイントの一つになっているオープンイノベーションにつながる非常に重要なポイントである。依然として日本企業は、垂直統合的かつ自己完結的な価値創造活動を理想としているところが多いが、世界の企業は大手、ベンチャーを問わずオープン化ベースの開発活動を強く推進している。この違いが事業開発スピードの違いになって表れていて、この点の再検討なしには日本企業の再生も難しいと言わざるを得ない。その意味でも、研究開発活動において自己完結的な活動に固執しないという点で、オープンインベーションと共通であるアウトソーシングについて、ここでしっかり押さえておいていただきたい。アウトソーシングの段階の理解なしには、その発展形であるオープンイノベーションは実現不可能である。