日出ずる国の復権

第1章 歴史の主役は、五〇〇年ぶりに西洋から東洋へ

著者:山下 義通

「はじめに」
 世界の歴史の流れが、大きな曲がり角に来ていると思います。アメリカのCIAが二一世紀は「アジアの世紀」だという報告書を出して、世界的に大きな反響を呼んだのはもう二年以上前になります。最近の中国、インドを中核とするアジア経済の発展は目覚ましく、正に、「アジアの世紀」が現実のものとなりつつあります。三〇〇年前の産業革命以来、ずっと西洋人が握ってきた世界経済の主導権がようやく東洋人に移りつつあるわけですが、この流れの変化は決して一過性のものではなく、歴史の流れの基調が変わりつつあるととらえるべきでしょう。

  と言うのも、世界の歴史を振り返ると、有史以来長い間、東洋人、特に、中国人、インド人が世界経済の主導権を握ってきたわけですが、コロンブスの新大陸発見以後、西洋人が南北アメリカを略取し、アフリカから拉致した奴隷を使ってアメリカ新大陸の金銀財宝を奪い取り、着々と武力と金力を増強し、東洋諸国を植民地化して、すっかり世界の政治、経済、技術の主導権を東洋人から奪ってしまったのです。しかし、明治以来の日本人の成功例に見られるように、眠りから覚めた東洋人は、本来、すごい潜在力を備えていると見るべきであるし、しかも、目覚めつつある東洋人の人口が、世界のほぼ半分近くを占めていることを考えれば、二一世紀は、正に、世
界史の曲がり角にあると言っても過言ではありません。

  このような世界史的転換期にありながら、かなりの日本人が、今まで通り、西洋中心の一直線の文明進歩を信じて、アメリカに追いつけ追い越せだけに精を出しているのは、平和ボケのせいなのでしょうか。あるいは、世界の動きに無知なのでしょうか。また、それが分かっている方々の間でも、それではどうしたら良いのかという議論も案外されていないように感じられるのです。

  そこで、そういう変化の時代の中で、日本人が、西洋人にも、他の東洋人にも負けないで、どう生きていったらいいのか、どうしたら繁栄して富のピラミッドを築けるのかということについて、一冊の本にまとめて、出来るだけ広い層の日本人の方々に読んでいただいて、多くの方で議論していただきたいと考えたわけです。

  多くの西洋人は、過去三〇〇年ぐらいの成果だけを根拠に、世界の未来は一つであり、しかも、自分達の考えている未来の方向だけが正しいと考えがちです。シングル・ワールドの世界観です。これは明らかに間違っています。世界には多くの多様な文明、文化があります。世界観も多様です。

  私は、「アジアの世紀」には、西洋のパワーが落ち、アジアその他の力量が伸びて、パラレル・ワールド、つまり、西洋的世界観、東洋的世界観、中東的世界観、その他いろいろな世界観が並立する、並行世界になると思っています。現代社会の世界的混乱も将来はパラレル・ワールドとして安定化に向かうでしょう

  本書は、パラレル・ワールドの中で、しかも、東洋人が主導権を持つ「アジアの世紀」の中で、日本人がしっかり存在感を発揮しながら繁栄を勝ち取り、富のピラミッドを築くためにはどうしたら良いのか、という戦略的なシナリオを読者にお見せしよう、という本なのです。

  しかし、現実には、世界人口の約半分を占める東洋人に伍して「アジアの世紀」を生き抜いていくことは、少子高齢化社会の日本人にとっては大へんなことなのです。それこそ、平和ボケで世界の変化に敏感とは言えないし、どちらかと言えばのんきな日本人ですが、今は正に、安閑としてはいられない状況なのです。

  例えば、金持ちのアメリカ人の真似をして実業をおろそかにし、マネーゲームのような虚業に溺れてしまえば、日本は滅びます。アメリカ人の市場原理主義の誘惑に乗って、マネーゲームの怪しげな山師と一緒におどり狂う政治家などの姿は、全く漫画です。目先の手っ取り早い経済の回復しか考えず、大きな視点から世界の中での日本人のあるべき生き様など全く考えていない指導層には、情けなくなります。

  アメリカ人と違って、資源や富の蓄積の少ない日本人は刹那的な富でなく永続的な富のピラミッドを築かなければだめなのです。それには、地道に、愚直に、汗を流し、あるいは、頭を使って働くことです。ただ、みんながこつこつと働くだけでなく、指導層がもっと世界を勉強して、永続的な民族の繁栄に向けて、長期的、大局的な戦略を国民に明示しなければだめです。

  こういうテーマは、もっともっと多くの方々の間で議論を高めていただきたいと思いますから、出来るだけ多くの読者に読んでいただけるように、分かり易く、大胆に、歯切れ良く、読み物風にシナリオを描いてみます。そのために「千里眼河童」というキャラクターに登場を願って、彼の口からざっくばらんに話してもらうことにしました。もちろん、彼の話す内容は、すべて、著者が検閲済みです。

  物語の基調は「日本沈没」ではなくて、「日本再興」です。日本人の富のピラミッド再興の物語です。敗戦後の焦土から一九八〇年代までの四〇年の間に、アメリカを恐れさせるまでの経済大国をつくり上げ、歴史的奇跡とまで世界に評価された日本人の真骨頂を、今度は「アジアの世紀」という世界史的転換期の中で思い切り発揮して、「アジアの世紀」を人類史的に真に意義のある世紀にするための物語風シナリオを描いてお見せします。明治維新以来の実績が示す通り、日本人は西洋人や他の東洋人に絶対に負けない素晴らしい能力を内に秘めています。日本人のこの潜在的な強さを、どこに、どのような形で結集出来るかという点が、実現可能な戦略シナリオを描く最大のポイントと心得ております。

  では、期待してお読み下さい。

  なお、本書の出版にあたってお世話になったダイヤモンド社出版局の吉田俊一さんと、私の秘書の竹井優子さんに心から御礼を申し上げます

二〇〇七年三月
山下義通
「目次」
まえがき
プロローグ 河童との出会い

第1章 歴史の主役は、五〇〇年ぶりに西洋から東洋へ
1 アメリカCIAの描く二〇二〇年の世界
2 本当に「アジアの世紀」が来るのか
3 西洋人のアメリカ大陸征服
4 西洋人の東洋征服
5 なぜ西洋は東洋より強くなったのか
6 「アジアの世紀」はパラレル・ワールド
7 パラレル・ワールドは最先端科学の考え方
8 アメリカ人はシングル・ワールドの人達
9 アメリカのアジアへの姿勢
10 世界の未来は一つではない
11 東洋は西洋を本当に超えられるのか
12 後発の東洋人が希求している社会
13 新世代工業社会の構築こそ東洋人の目標

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