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【導入事例あり】リスキリングとは?導入するメリットやステップを解説
2023/5/29
近年、DX時代と呼ばれているほどデジタルに関する変化が激しく、ビジネスパーソンに求められるマインドやスキルも目まぐるしく変わったことから、注目されはじめたのがリスキリングです。2018年の世界経済(ダボス)会議でもリスキリングの必要性について触れられており、世界的な課題として挙げられております。
日本においても、急激に注目されはじめている中、リスキリングがどのような概念で何をしなければいけないのか、わからない方も多いはず。
本記事では、リスキリングとはどのような概念で、なぜ必要とされているのか。リスキリングを進めていくうえでどのようなステップがあり、何が課題になり得るのか、実例も踏まえて紹介していきます。
リスキリングとは
リスキリングとは、新たな職業や職種につく際や、既存の職業や職種で必要とされているスキルの変化に適応するために、必要なスキルの獲得を目指して学びなおすことを指します。リスキリングは、単なる学習ではなく、職業で成果を発揮するために必要なことをスキルとして学ぶことが目的です。
時代の変化によって企業のサービスや提供価値、働き方も変化しており、並行して社員に求められるスキルも変わっていくため、変化に対応するためのリスキリングが必要になります。
リスキリングとリカレントとの違い
リスキリングとリカレントは、どちらも学ぶといった意味合いで使用されるため、混同して考えられがちです。
どちらも仕事のために学ぶといった側面は同じですが、最大の違いとして、自らの意思でスキルを学ぶか、企業の意思でスキルの教育を施すかといった点が挙げられるでしょう。
リカレントの場合、自分自身が今後のキャリアアップを目指すうえで何を学ぶかが主軸になり、あくまで個人の人生をより豊かにするために学習することを指しています。リスキリングは、企業が自社の今後の事業拡大を踏まえて、社員にどのようなスキルを学びなおしてもらうかが主軸になるため、あくまで企業の意思が主体となります。
リスキリングが注目されている背景
近年、リスキリングといった概念は、急速に注目を浴びるようになりました。
キーワードの検索ボリュームの推移をGoogle Trendで確認してみると顕著で、2021年ごろから少し増えていき、2022年の10月頃から急激に増えています。
本章では、急激に注目されている背景を紹介していきます。
出典:Google Trend
国会や経済産業省で今後の取り組みについて明言している
リスキリングが注目されている最大の背景として、国会や経済産業省がリスキリングに関する今後の取り組みについて明言をし、国全体としてリスキリングを推進していることがあげられるでしょう。
岸田首相も2022年10月開催の座談会で「リスキリングした人材が、より賃金が高く、やりがいを持てる場所で活躍することで、生産性を向上させ、さらなる賃上げを生む好循環を作っていくことが重要だ」と述べています。
上記のように、日本政府も、制度の構築や補助金の拡充など、企業のリスキリング支援を政策として掲げる姿勢を示しています。
DX化の促進によりデジタル領域へのスキルセットが必要になった
リスキリングが注目されている背景のひとつとして、DX化の促進によりデジタル領域へのスキルセットが必要になったことも挙げられます。
DX化に伴い、これまでビジネスパーソンに求められていたスキルが変化しています。具体的なスキルでいうと、これまで必要とされていた作業ベースの実務は、ツールやロボット、AIなどに代替されている傾向があるでしょう。実例で挙げると、社内申請や承認作業などはバックオフィス支援サービスなどに代替されつつあるでしょう。
上記のような背景から、今後のビジネスパーソンに求められるスキルは、DX化を目指すためのプログラムやシステムを要件定義し構築していける設計力、DXツールを正しく理解して活用するための管理能力、社内メンバーが活用できるように落とし込む力などに変化していきます。
こうしたデジタルに関するスキルを既存社員にセットしていくためにも、リスキリングが必要となります。
リスキリングを導入するメリット
リスキリングを導入することでどのようなメリットがあるのでしょうか。
本章では、代表的な4つのメリットについて紹介していきます。
IT人材の人手不足を解消できる
初めに、IT人材の人手不足を解消できるといったメリットがあります。
急速なDX化に伴いIT人材の需要は高くなっており、各企業のIT人材における人手不足が後を絶たない状況です。人手不足により、必然的に採用難易度も上がるため、大多数の企業では最適な人材の確保に課題を抱えているのが実状です。
リスキリングにより、既存社員のITスキルやリテラシーを向上させることで、IT人材の人手不足を解消できるといった利点があります。中途で採用された社員よりも既存社員のほうが業界や社内業務への理解が深く文化も継承しているため、事業を推進していく観点でも有効な手段だといえます。
IT領域に限った話ではなく、人的資本を成長分野や自社にとって本当に必要な分野に投資するといった視点を持ち、成長分野に関わる領域で社員のリスキリングを実施することが重要です。
従業員エンゲージメントの向上
次のメリットは、従業員エンゲージメントの向上です。
リスキリングに取り組むことで、社員に新たな学びの機会や、これまでと異なる業務に携われる機会を提供できます。新たな取り組みを通じて従業員のキャリア形成を支援することで、従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上につながるでしょう。
従業員のエンゲージメントを高めていくためには、個人の納得度を高めたうえでリスキリングを行うことが重要なポイントになります。対象者は何を実現したくてどのような強みがあるのか、本人の意思や強みがリスキリングのテーマに即していて、本人が求めるキャリアアップにつながるのかを十分会話して取り組みましょう。
変化が激しい時代の事業成長に対応できる
リスキリングに取り組むことで、変化が激しい時代の事業成長に対応できるようになります。
時代の変化により、ユーザーから求められるニーズの変化や、購買行動の変化などが起こり、ビジネスモデルや事業戦略も変化していきます。変化に伴い必然的に人事戦略も変わるため、リスキリングがひとつの手段として必要になるのです。
リスキリングを行うことで、新たな成長分野に関するスキルを持った人材が社内に増えていきます。これまでの自社の強みや文化、業界知識を心得た社員に新たなスキルセットがされることで、正しい事業成長に向かった戦略や提案が生まれてくるでしょう。
自社への理解がある社員にスキルを身につけてもらえる
外部から専門人材を採用するのではなく、既存の社員をリスキリングすることで、自社のビジョンや方向性を理解した人材に、スキルを身につけてもらえるという点もメリットのひとつです。
日本企業は、これまでの数十年間を新卒一括採用、年功序列、終身雇用の人事制度で成長してきた企業が多いという特徴があります。会社に長く務めている分、会社愛やメンバーシップがあり、自社や業界への理解、社内の他部署に対する理解や連携ができるなどが利点として挙げられます。
そういった社員に新たなスキルを身につけてもらうことで、より長く活躍できる環境の整備や、より確実な事業成長への戦略を設計できることでしょう。
リスキリングを導入するステップ
ここからは、リスキリング導入の流れについて紹介していきます。
STEP1:目標を設定する
リスキリングは、DX時代を見据え、企業が事業成長できるよう経営基盤を強固なものにすることが大きな目的の一つとしてあります。よって、経営戦略に基づく人材戦略を実現するためにどのような人物像やスキルが必要になるのか、ということを明らかにする必要があります。
STEP2:リスキリングのプログラムを決める
STEP1で必要なスキルが明らかにし、そのスキルを獲得するためのプログラムと教材を設計しましょう。リスキリングの方法としては、研修やセミナー、e-learningなど様々な種類があります。社内で開発する場合もあれば、外部ベンダーの学習コンテンツを活用したり、外部講師を招いて勉強会を実施するというケースもあります。学習方法を幅広く用意することで、社員が自分に合った方法を選ぶことができるなど、学習への意欲が高まるような工夫も考えると良いでしょう。
STEP3:リスキリングに取り組んでもらう
プログラムが準備できたら、社員に取り組んでもらいます。あらかじめ指定した時間に研修や勉強会を開催するようなケースもあれば、社員の都合に合わせて柔軟にスキルアップに取り組めるような施策もあるでしょう。注意したいのは、リスキリングは企業が主体となって実施しているという点です。原則としてはリスキリングの取り組みは就業時間内に行われるように設計することをお勧めします。
リスキリングを導入する上での課題
リスキリングを導入するにはいくつかの課題があります。あらかじめ課題を知って対策をしておくことでスムーズなリスキリングの導入に役立てましょう。
リスキリングを誤解している
「リスキリングは単なる学び直し」と誤解している人が少なくありません。
リスキリングとは「新しいことを学び、スキルを身に付け、新しい職につくこと」を指しており、学び直しの部分はごく一部でしかありません。
リカレント教育では、個人の関心ごとを学ぶので「学び」にフォーカスしても問題ありませんが、「新しいスキルを身につけたり新しい職業に就くため」のリスキリングでは「学び」を目的としてしまうと失敗をしてしまう可能性が高まります。
また、リカレント教育とリスキリングを混同してしまい、学びを目的としてしまうと「業務時間外でのリスキリング」や、「スキマ時間」でのリスキリングを行ってしまう場合があります。
リスキリングは、仕事の一環であり、就業時間に行うべき業務です。「業務時間外でのリスキリング」や、「スキマ時間」でのリスキリングは、従業員の自主性に任せたものとなっており、従業員のモチベーションを保ちにくくなってしまうことから、失敗してしまう可能性が高いものとなるでしょう。
リスキリングを導入し、社内で浸透させるのであれば、経営陣や人事部がリスキリングの本質や正しいリスキリングを理解することが第一歩となるでしょう。
リスキリングを適切に設計するのが難しい
リスキリングを導入しようとした時に、どのようなコンテンツを用いてどう学び、何をもってリスキリングの成功と評価するのか、というような制度設計の難しさの問題があります。
社内に設計できる人材がいない場合は、リスキリング推進のコンサルティングを行う企業などの専門家からコンサルティングを受けたり、学習コンテンツを購入したりといった取り組みを積極的に行うことがおすすめです。
社員に対しても、何を目的に何を学ぶのか、今あるスキルと将来必要になるスキルとは一体何なのかをしっかりと明示して、わかりやすい制度設計を行う必要があります。
リスキリングに抵抗する社員もいる
企業がリスキリングを推進したとき、社員の中にはリスキリングに抵抗感を示す者がいるかもしれません。長年既存の業務に従事してきていて、なにかしらの分野での高い専門性を持つ社員や比較的年齢の高い社員は、リスキリングに対する抵抗を抱きやすい傾向にあります。
今から新しいことを学ぶことへの抵抗感や、今まで学んで身につけた専門性を手放すことへの抵抗感が背景にあります。
リスキリングに抵抗する社員に対しては、VUCAの時代において、既存の業務だけを続けていても、企業は生き残れないことをしっかりと理解してもらうことが大切です。企業がなくなってしまえば、当然ながら働く社員は職を失うこととなります。自身のキャリアを守るためにも、企業にとってリスキリングは必要不可欠であることを伝えます。
現在のスキルに依存して、リスキリングに取り組まなくなってしまうと、企業の中での自身の人材価値を高めていけないという、危機感を持ってもらう必要があるでしょう。
リスキリングとは具体的に何をしたらよいのかを具体的に示すこと、リスキリングのできている社員に対するインセンティブを用意することなども効果的な対策の一つです。
リスキリングを導入した実例
本章では、リスキリングを導入して成功した企業の例をご紹介します。
マーケットの縮小からシフトチェンジを叶えたAT&Tの事例
リスキリングの先駆者として、アメリカのAT &Tの事例があります。
AT &Tでは、社員の多くがハードウェア関連事業に従事していましたが、iPhoneの登場を背景に10年後にハードウェア関連事業は消失する、とした社内調査を公表しました。
上記のような背景から、ハードウェア事業からソフトウェア事業へシフトチェンジすべく、全社的なリスキリングを推進しました。今社員が持っているスキルを可視化した上で、将来必要になるスキルを明示し、社員が具体的に何を学ぶ必要があるのかを示したのです。
また、オンライン学習コンテンツや学習支援プラットフォームの提供、キャリア支援開発ツールの整備といったリスキリングのための体制を整備しました。
結果として、AT &Tでは約50%の社員がリスキリング後に新たなスキルが必要となる部署に配置転換され、多くの社員が昇進昇給を果たしています。会社全体としても、新しいソフトウェア事業に多くの自社人材を配置することに成功し事業拡大につながりました。
ジョブ型雇用の実現を目指す日立製作所の事例
日立製作所は、人工知能(AI)領域を中心に社員のリスキリングを促すためのシステムをグループ全体で導入しています。
日立製作所は、2022年7月からジョブ型雇用の導入を進めています。ジョブ型雇用では、各職種の職務記述書に必要なスキルが示され、必要なスキルがある社員を対象の職種へ配置していかなければいけません。
ジョブ型雇用の効果を高めるためにも、リスキリングの仕組みを整えて、社員のスキルアップを狙っているのが日立製作所の事例です。
参照:日立、リスキリング管理システムを全社員に導入|日立製作所
まとめ
近年重要度を増しているリスキリングについて、リカレントとの違いなども含めてご説明しました。
リスキリングは単に社員の自己啓発を目的とした学び直しではなく、VUCA時代を生き残るための企業にとっての重要な経営戦略であることを、ご理解いただけたのではないでしょうか。
リスキリング推進の重要性や課題を認識したうえで、ぜひ自社におけるリスキリング推進施策の設計にお役立てください。
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記事監修
- 前田 正彦(まえだ まさひこ)
- 株式会社スキルアカデミー 代表取締役CEO
慶應義塾大学経済学部卒業。米国マサチューセッツ工科大学経営大学院(Sloan School of Management)修了。株式会社前田・アンド・アソシエイツ代表取締役(現職)。
株式会社NTTデータにて金融システムの開発に携わった後、 数々のコンサルティングファームにて、戦略立案から実行・定着までのプロジェクトを数多くリードしてきた。
その後人事・組織コンサルティングの必要性を痛感し、当該分野のプロジェクトを立ち上げ、戦略から人事・組織コンサルティングまで一貫したサービスを提供している。
スキルアカデミーにおいては、代表取締役CEOとしてAI人事4.0事業全体の推進をリードするほか、組織・人事・人材開発などの案件を数多くリードしている。
また組織診断・管理特性、職務等級制度・成果報酬制度などツールを開発。グローバル人事プロフェッショナル組織であるSHRM認定資格を取得。