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残業削減するためには何が有効?そもそもの原因から対策・注意点に至るまで徹底解説

残業削減するためには何が有効?そもそもの原因から対策・注意点に至るまで徹底解説
  1. 残業が発生してしまう7つの要因
  2. 残業削減のための7つの施策
  3. 責任範囲の明確化が残業削減の重要なポイント
  4. 残業削減により得られる5つの効果
  5. 残業削減が意味をなさない2つのケース
  6. 残業削減に取り組む際の3つの注意点
  7. 残業削減の成功事例2社
  8. まとめ

「従業員から残業に対する不満の声が上がっている」「生産性の低さが課題となっている」などの悩みを抱える企業も多いのではないでしょうか。

残業時間が長くなるほど、従業員のパフォーマンスは低下し、心身にも悪影響が生じてしまう恐れがあります。そのため、残業が多い企業には早急な対応が求められます。

本記事では、残業が生まれる原因や、残業削減によって得られる効果、残業削減に効果的な施策などを解説します。最後に企業の取り組み事例も紹介していますので、ぜひご参考にしてください。

残業が発生してしまう7つの要因

残業が発生してしまう要因には、主に以下の7つが挙げられます。

  • 適切な勤怠管理ができていない
  • 業務が属人化してしまっている
  • 目標や期日が明確化されていない
  • 業務量・内容と個々の能力が見合っていない
  • 残業が評価される風習ができてしまっている
  • コミュニケーションが不足している
  • そもそもの業務量が多すぎる

まずは各要因をしっかりと理解して、自社の現状を把握することが大切です。
それぞれの詳細を解説していきます。

要因1.適切な勤怠管理ができていない

勤怠管理ができていなければ、残業は当然発生してしまうでしょう。
労働状況や労働時間の把握ができていないことにより、それぞれの従業員がどれだけの業務を抱えているのか、どの従業員にどれだけの残業が発生しているのかがわからなくなるためです。

その結果、すでに労働時間いっぱいの仕事を抱えているにもかかわらず、新たなタスクを課してしまったり、残業削減のための具体的かつ適切な施策が立てられなかったりして、残業時間が発生してしまうのです。

勤怠管理ができない原因としては、勤怠に関するルールが曖昧であることや、勤怠管理のシステムが構築できていないことが考えられます。残業の制限がなく自由に残業ができる状態であれば社員は軽い気持ちで残業をしやすくなりますし、従業員の労働時間をシステムで管理できる環境が整っていなければ残業管理は難しくなるでしょう。

要因2.業務が属人化してしまっている

業務が「属人化」してしまっていることが、残業増加の一因となっている可能性もあります。

属人化とは、特定の業務に関する手順やノウハウ、情報が、その業務の担当者以外には把握・理解できていない状態を指します。
業務が属人化すると、担当者以外は当該業務の遂行に積極的に関わることができず、疑問点などが生じた際には都度担当者に確認しなければなりません。そうなると、双方に余計な時間と手間がかかります。

また、担当者が休んだ際には、ほかの従業員が手伝えないために業務が滞る可能性があり、自身の代役がいないことから担当者が過剰な残業を強いられる事態も起こり得るでしょう。

要因3.目標や期日が明確化されていない

仕事の明確な目標や期日が定まっていない場合も、残業が発生しやすくなります。

目標や期日が明確になっていなければ、「いつまでに」「どの程度まで」仕事を終わらせていたらよいのかを把握できません。それにより、「とりあえず進められるところまで進めておこう」といった考えを持つようになり、残業が習慣化してしまいやすくなるのです。

また、目標が明確でないがためにゴールが見えず、必要以上に手直しを加えるなど、本来必要のない作業が発生してしまう可能性もあるでしょう。そうした業務の膨張も、残業へとつながってしまいます。

目標や期日が曖昧なままではメリハリのある働き方ができなくなるため、ゴールを明確にすることが重要です。

要因4.業務量・内容と個々の能力が見合っていない

業務量と個々の能力が見合っていないことも、残業が発生する原因の1つです。
業務内容や量と個々の従業員の能力とが見合っていない場合、業務時間内に仕事が間に合わず、残業が発生しやすくなります。

業務内容・業務量と、個々のスキル・経験値は、バランスが取れていなくてなりません。各々のスキルや能力、経験値を踏まえた上で作業時間を見積もり、業務を割り当てなければ、従業員がこなしきれない業務を担いやすくなり、残業の発生につながります。
個々のスキルや経験値に合わない業務を割り当てられれば、当然、業務効率も落ちるため、作業が長引きやすくもなるでしょう。その結果、残業は一層増加してしまいます。

要因5.残業が評価される風習ができてしまっている

残業が評価・歓迎される風習ができてしまっているケースも、残業を引き起こしやすいです。
社内に残業を良しとする風習・空気ができあがってしまっていた場合、そもそも残業を問題視することがないため、残業は一向に削減できません。

残業をしている従業員は一見すると、多くの仕事を抱え、ほかの従業員よりも多く働いているように見えるでしょう。そのため、上司は「仕事熱心なメンバーだ」「会社のために頑張ってくれている」と評価してしまいがちです。しかし実際には、スキル不足で業務が間延びしているだけであったり、手を抜いていたために残業が発生してしまっていたりすることも少なくありません。

残業を「頑張っている」と捉えてしまうと、残業を削減する努力をしなくなってしまうため、自社の残業は本当に評価に値するのかを考え直す必要があります。

要因6.コミュニケーションが不足している

意外と見落としがちな原因ですが、社内のコミュニケーションが不足している場合も、残業が生じやすくなります。

上司と部下、他部署との連携など、社内でのコミュニケーションが上手くいっていると、仕事で齟齬が生じづらく、進捗も順調になりやすいものです。
しかし、コミュニケーションが不足しているケースでは、業務が滞ってしまう場面が多々出てきます。コミュニケーションが不足すると、レスポンスの遅延や、認識のズレによる無駄な作業、業務の手戻りが生じてしまいやすくなります。余計な仕事が増えキャパシティオーバーになることで、業務の効率は落ちるでしょう。それによって、所定の労働時間内で業務を処理しきれず、残業が発生してしまうのです。

とくにテレワーク環境下においては、対面ではないために通常よりもコミュニケーションがとりづらい傾向にあります。オンライン上の質問・相談ではタイムラグが発生してしまうことも多いため、問題が顕著になりやすいでしょう。

要因7.そもそもの業務量が多すぎる

そもそもの業務量が多く、人員が足りていない場合も、当然残業は発生してしまいます。どれほど優秀な人材が揃っていても、業務量と人員のバランスが合っていなければ、仕事を業務時間内に終わらせるのは困難です。

とくに離職率が高く、従業員の入れ替わりが激しい職場においては、この問題が発生しがちです。働いても働いても仕事が終わらない、連日残業を強いられるという状況に疲弊し、さらに離職者が増えてしまうリスクもあるでしょう。そうなると、負のループに陥ってしまいます。

残業削減のための7つの施策

ここまで残業が生じる原因を解説してきましたが、適切な対策を講じることで残業は削減可能です。残業削減に役立つ施策を、7つご紹介します。

  • 労働時間の可視化・把握
  • 目標やタスク期日の明確化
  • 業務内容と作業効率の見直し
  • 事前申請制の導入
  • ノー残業デーの設定
  • 上司の残業時間の意識的な削減
  • 評価制度の見直し

それぞれどのように取り組めばよいのか、詳しく見ていきましょう。

施策1.労働時間の可視化・把握

労働時間の可視化をおこない、しっかりと業務時間・残業時間の把握をすることで、残業は削減可能です。残業削減のためには、労働時間の可視化は欠かせません。

先述したように、勤怠管理がしっかりとできておらず、管理する側、従業員自身の双方が日々どのくらいの時間働いているのかを把握できていない状態では、残業を減らすことは困難です。残業が恒常化してしまい、どれほど残業時間が発生しているのか把握できていない企業は、早急に労働時間管理のルールや仕組みを整えるようにしましょう。

実際の労働時間・残業時間を可視化することで、管理する側も従業員側も、労働時間を意識するようになり、残業削減に向けた行動を取りやすくなります。
労働時間を可視化する上では、勤怠管理ツールなどの導入もおすすめです。システムによって機能は異なりますが、勤怠管理ツールでは全従業員の日々の労働時間や残業時間をシステム上で把握・管理できるようになります。

施策2.目標やタスク期日の明確化

目標やタスクの期日を明確にすることも、残業削減を実現するために有効です。業務の目標やゴール、タスクの期日が定まっていなければ、ダラダラと残業を続けてしまいがちですが、ゴールを明確にすれば効率的に業務を処理できるようになります。

「1日のタスク」「1週間分のタスク」「1か月分のタスク」が明確に定まっていることで、効率的な仕事のスケジュールを立てることができ、メリハリのある働きも叶うでしょう。

「いつまでにどこまで進めておけばよいのか」を明らかにすることで、各タスクの遂行のために必要十分なリソースを把握できるようになります。それに基づき労働計画を立てることで、効率的に働けるようになるのです。

施策3.業務内容と作業効率の見直し

残業削減のためには、従業員一人ひとりの業務内容と作業効率を把握し、改善することも重要です。

業務内容の洗い出しと、それぞれの業務にかかる時間、進め方を確認し、より効率的な方法がないか検討する必要があります。個々の業務が適切に割り振られているかも、同時に確認しましょう。

また、先述したように業務が属人化していると、特定の従業員にのみ特定の仕事が集中し、ほかの従業員がその人の代わりに遂行できなくなるケースも発生します。こうした問題の対策としては、マニュアルの整備をおこない、誰もがその業務をおこなえるようにすることが有効です。

必要のない無駄な業務が発生していないかを把握することも、ポイントといえます。部署や部門ごとに業務内容と作業効率を確認し、無駄な業務を排除して、作業を効率化することが大切です。

また、業務配分を見直して、従業員がキャパシティオーバーにならないよう調整もしましょう。

施策4.事前申請制の導入

残業の事前申請制を取り入れることも、残業削減につながります。
日々の仕事の中では、どうしても残業せざるを得ないケースもあるでしょう。そのような場合には、従業員の意思のみで残業させるのではなく、残業の事前申請制を導入することをおすすめします。

事前申請制を導入することで、上司側は部下の残業をしっかりと把握できるようになる点がメリットです。また、申請する側にも、「本当にこの業務は残業をする必要があるのか」「残業の必要があるとしても、ダラダラと取り組まず迅速に仕事を終わらせよう」といった意識が芽生えます。

事前申請を導入する際には、「いつ(when)」「どれくらいの時間(how)」「残業の理由(why)」を明らかにして申請するようにしましょう。「許可がおりなければ残業はNG」「急を要する場合以外は何日前までに申請する」などのルール設定も必要です。

また、残業チケット制を導入するのもよいでしょう。残業チケット制は、月初にチケット数枚を従業員に渡し、残業1時間ごとにチケット1枚を消費する制度です。残業に制限を持たせることで、従業員が「不必要に残業をすべきではない」といった意識を抱きやすくなります。

施策5.ノー残業デーの設定

全社でノー残業デーを設けることも、残業時間の抑制に効果的です。
いつでも残業ができてしまう環境下では、制限なくダラダラと仕事をしてしまいがちですが、強制的に残業ができない日・仕組みを導入することで、残業の削減につながります。

たとえば「毎週水曜日はノー残業デー」など、全員が早く帰らなければならない日を設けるようにしましょう。「ノー残業デーは〇時までに帰らなければならない」と制度化することで、社内に共通認識が生まれ、早く帰りやすい雰囲気づくりができます。

また、「ノー残業デーは〇時までに帰らなければならないから、この仕事は業務時間内にしっかりと集中して終わらせよう」といった意識も強くなります。作業効率の向上にも期待できることが、ノー残業デー設定のメリットといえるでしょう。「21時には社内を消灯する」などの工夫も有益です。

施策6.上司の残業時間の意識的な削減

上司が残業していると、部下側は心理的に先には帰りにくいものです。また、上司の残業が慢性化している状態は、「残業の原因」に挙げた「残業が評価される風習」にもつながるため、上司側が意識的に残業時間を削減し、早く退社しやすい雰囲気づくりをおこないましょう。

上司が日々率先して早めの退社を心がけていると、部下側にも「自分たちもさっさと仕事を終わらせて退社しよう」という意識が芽生えます。
上司への申請や報告、相談は定時までに必ず終わらせること、といったルールを儲けることも大事です。

施策7.評価制度の見直し

残業削減のためには、評価制度を見直すことも非常に重要です。
勤勉が歓迎される日本では、かつて長時間労働が当たり前とする風潮がありました。しかし昨今では、労働人口の減少や働き方の多様性から、短時間で成果を出し、1人あたりの生産性を上げることが評価されるようになってきています。

一方で、古い風潮が残ったままの企業も中にはあります。古い価値観に基づいた評価制度が根付いてしまっている場合には、早急に評価制度の見直しをおこないましょう。

労働時間の長さが評価に関係しない、仕事の成果や個人のスキルが重要視される評価制度の構築が必要です。成果と業務効率が紐づくような評価制度を構築することで、残業削減が期待できます。
それには、メンバーシップ型ではなくジョブ型の評価制度が適しているといえるでしょう。

責任範囲の明確化が残業削減の重要なポイント

従業員の残業時間が長くて困っている場合には、責任範囲を明確化することこそが残業削減に効果的です。
残業を生み出す根本的な原因として、仕事の責任範囲が決まっておらず、何でも仕事として任されてしまう状態が挙げられます。

上司に指示され放題で、本来の自分の業務とはずれる仕事も部下がおこなわなければならない場合、部下は業務に忙殺され、それでもすべての業務を消化するために残業せざるを得なくなるでしょう。上司の雑務を手伝わされ、自身の仕事は進まずにプライベートを犠牲にして残業しなければならない環境に、部下は精神的・身体的に疲弊してしまいやすくなります。それによって生産性が低下し業務の進捗が遅れると、さらに残業時間は増えていく可能性も考えられるでしょう。

こうした問題を防ぐため、各々の仕事の責任範囲を明確にし、自身の役割を全うできる環境をつくることが重要です。各従業員の職務が明確になり、必要な仕事に集中できるような生産性の良い働き方が実現できます。その結果、残業時間の削減にもつながります。

残業削減により得られる5つの効果

残業削減によって、以下5つのメリットが期待できます。

  • 業務の効率化
  • コスト削減・増益
  • 従業員のモチベーション向上
  • 離職率の低下
  • 企業イメージ・外部評価の向上

それぞれいかにして実現できるのかを解説します。

効果1.業務の効率化

残業を削減することで、業務の効率化が叶います。

残業を削減するためには業務内容や量の見直しが必要と先述しましたが、業務内容を見直すことによって、自ずと無駄な業務や整理すべき業務が見えてきます。
たとえば、残業削減のため「無駄な議題を避け会議を短縮する」「適切な業務の分配をおこなう」といった行動につながるでしょう。残業削減のための施策によって業務の効率化が叶えば残業時間の短縮ができ、それによって更なる残業削減にも期待できます。

「残業削減に取り組む」→「成果が見える」→「従業員のモチベーションが上がる」→「更なる業務効率化に向けて前向きに取り組む」といった良い循環が生まれれば、将来的に大幅な業務の効率化も実現可能です。

効果2.コスト削減・増益

残業を削減することで、コストの削減や生産性の向上、増益にも期待できるでしょう。
残業を削減できれば、まずコストの削減が叶います。「残業手当」といった人件費のほか、残業時間分の光熱費や、残業代に伴う年金や健康保険税といった企業負担も削減可能です。

組織全体に残業をしない、させない方針・空気が根付けば、時間内に業務を終わらせる意識が従業員一人ひとりに芽生え、生産性の向上も望めるでしょう。生産性が向上すれば、当然増益にもつながります。

コストを削減でき、高効率・高収益の企業経営ができれば、小さなコストで大きな成果を出せる組織になれるでしょう。

効果3.従業員のモチベーション向上

「残業の原因」で挙げたような「残業が評価される」職場環境下では、「残りたくないのに、周りに合わせて残っていた」「上司が残業しているために帰りづらい」という人も少なくありません。
ワークライフバランスの悪い職場では、従業員のモチベーションも上がらないでしょう。
その点、組織全体が残業削減に向けて動くことで、「仕事が終わっていれば残る必要はない」という意識が従業員全体に根付けば、残業削減が進み、心理的にも前向きになります。

残業が削減できれば、今まで残業に充てていた時間をプライベートの時間に充てられるようになり、ワークライフバランスが整います。また、それまで残業に充てていた時間をスキルアップや自己研磨の時間へと充てられる点も、残業削減のメリットです。自己研鑽で培った知識やスキルを仕事へと反映し、上司や同僚からポジティブなフィードバックが得られれば、更なるモチベーション向上・エンゲージメントの向上にもつながるでしょう。

効果4.離職率の低下

残業を削減することで、離職率の低下にも期待できます。

先述したように、残業が慢性化している職場では、従業員のモチベーションは向上しません。そして残業が評価される風潮は心理的な負担を増幅させ、長時間労働は心身共に疲弊させるため、健康被害が出ることも考えられます。

残業が当たり前になってしまっていると、上記のような身体的・心理的不調を抱えやすくなり、それを理由として離職・転職を考える従業員も増えてしまうでしょう。

その点、残業を削減できれば、ワークライフバランスは改善され、残業による健康被害も減らせます。また、仕事とプライベートのメリハリがあることで、モチベーションも高く保ちやすく、職場に対する信頼感・安心感も生まれるでしょう。その結果、離職率の低下が望めます。

残業が少なく「働きやすい」企業は、従業員の定着が期待でき、人手不足の解消にもつながるはずです。

効果5.企業イメージ・外部評価の向上

残業を削減することで、外部からの企業イメージや評価を上げられる点もメリットです。

昨今、長時間労働やそれによる健康被害、過労死などが問題視されている日本においては、残業の多い企業はブラック企業というイメージがあります。そうした中で、従業員に長時間労働を強いている企業は、取引先や投資家、求職者に対して悪い印象を与えやすいです。

一方で、長時間労働の改善に積極的に取り組み、残業削減を実現できた企業は、「ホワイト企業」としてイメージアップが図れ、社会的信用も得られるようになるでしょう。ホワイト企業として社会的な信用を得られれば、取引先など外部からの評価も上がり、昨今苦戦を強いられている採用市場においても有利に働きます。

社会的信用の大きさは、売上高や資金調達、株式上場などにも大きな影響を与えるため、残業時間を削減することは企業経営の面でもたいへん重要です。

残業削減が意味をなさない2つのケース

残業削減によってコスト削減や増益などのメリットに期待できますが、いかなるケースでもそうしたメリットが得られるとは限りません。
以下のようなケースでは、残業削減が意味をなさないどころか、組織に悪影響をもたらしてしまっています。

  • 結果的に隠れ残業が発生してしまう
  • 一部の従業員の業務負担が激増してしまう

それぞれの詳細を見ていきましょう。

ケース1.結果的に隠れ残業が発生してしまう

全社的に残業を削減したことによって、会社に隠れて自宅などで残業をする「隠れ残業」が発生してしまうケースがあります。残業を規制されても、業務時間内もしくは期日までに仕事が終わらなければ、どこかで作業をしなければならないためです。

その場合、従業員の心身の負担は変わりません。むしろ、かつては残業代が発生していたものの、残業が禁止されたことによって自宅などでサービス残業をしてしまっている場合、そこにかかる対価は一切得られないため、不満は以前にも増して大きくなるでしょう。

目に見える残業は減っても、実質的にはサービス残業となっている場合、施策は失敗しているといえます。

ケース2.一部の従業員の業務負担が激増してしまう

残業削減の取り組みによって一部の従業員にしわ寄せが生じてしまっているケースも、取り組みの失敗例です。

全社的に残業時間を減らしたことによって、業務時間内に終わらせなければいけない業務が増えてしまうケースは多々あります。その分を従業員に均等に分配できていれば、大きな問題はありません。しかし、能力やスキル、経験の違いなどから、一部の従業員のみにしわ寄せがいくことも十分に考えられます。

このように従業員間での業務負担のバランスが大きく崩れてしまう状態は、残業削減の成功例とはいえません。一部の従業員の業務負担が激増し、施策の意味がなくなってしまいます。

残業削減に取り組む際の3つの注意点

残業削減に取り組む際には、以下の3点に注意しましょう。

  • 残業時間の削減のみにとらわれない
  • 残業削減による効果目標を共有する
  • 標準化を意識する

上記のポイントを意識して取り組むことで、残業削減の施策の成功に近づきます。

注意点1.残業時間の削減のみにとらわれない

残業削減に取り組む際には、残業時間のみにとらわれないよう、注意が必要です。
残業が発生してしまっている原因や業務内容・効率をしっかりと見直さずに残業時間のみを削減することは、逆効果となる可能性が大いにあります。

たとえば、明らかに業務量が多いために残業が発生してしまっているとします。その場合に、ノー残業デーを多く設けたり、20時に強制的に社内を消灯したりしても、先述の例のとおり、隠れ残業や持ち帰り残業が発生するリスクが高まるばかりです。
そのような状態は、従業員の健康維持やモチベーションに影響するだけでなく、情報漏洩や規約違反にもつながりかねません。

そのため、「残業時間」といった大枠のみを改善するのではなく、残業の原因をしっかりと把握・分析して、業務内容や各種制度の見直しといった「中身」から取り組んでいくことが大切です。

注意点2.残業削減による効果目標を共有する

残業削減に取り組む際には、効果目標を共有しましょう。
事前の説明もなくただ残業削減を強いられても、従業員としては積極的な取り組みは難しく、おこなえたとしても表面的な施策となってしまうでしょう。

残業削減によってどのようなメリットが得られるのかを全社で共有することで、有益な残業削減となります。
具体的には、以下のような効果目標を、全従業員で共有しましょう。

  • 何のために残業削減に取り組むのか
  • 残業削減によってどのような効果が期待できるのか
  • どういうゴールを目指して残業削減をおこなうのか

共通認識のもと施策に取り組んでいくことで、仮に隠れ残業が発生してしまった場合などにも、問題の共有や議論がおこなわれやすく、必要な対策を講じやすくなります。問題に適切に対応できれば、正しい形での残業削減が叶い、種々のメリットが得られるようになるのです。

注意点3.標準化を意識する

残業削減に取り組む際には、「業務の標準化」を意識することもポイントです。
業務の標準化とは、全従業員が同じ成果をあげられるよう業務の流れや成果物の水準などを決め、認識を共有することを指します。

業務を標準化することで、業務の品質が一定以上に統一され、生産性の向上にもつながります。また、業務フロー・プロセスを明確にすることによって誰でも同じような成果物を作れるため、業務の属人化を防げる点もメリットです。そのほか、正しいやり方を統一することで手戻りや無駄な作業が減り、業務の効率化も期待できる、育成時間・コストの削減が図れるといったメリットもあります。

標準化を意識した残業削減に取り組めば、先述したような「一部の従業員のみ業務負担が増加する」「特定の従業員しかおこなえない業務に残業が発生しがち」といった問題を排除することも可能です。

残業削減の成功事例2社

最後に、残業削減に成功した事例を2社ご紹介します。
自社での取り組み内容の参考としてください。

事例1.伊藤忠商事

伊藤忠商事では、効率的な働き方や従業員の健康管理を推進する観点から、かねてより残業削減に取り組んでいます。その一環として、2013年10月より「朝型勤務」のトライアルを実施した結果、以下のような内容が期待できると考え、本格導入にまで踏み切りました。

残業削減によってどのようなメリットが得られるのかを全社で共有することで、有益な残業削減となります。
具体的には、以下のような効果目標を、全従業員で共有しましょう。

  • 業務の効率化
  • 従業員の健康維持
  • 女性従業員の活躍支援
  • 従業員の仕事と家庭との両立の支援

同制度では、フレキシブルタイムを朝の5時から8時に設定しました。フレキシブルタイムに勤務する場合には、深夜と同等額の割増賃金になるほか、朝食が支給されます。また、同制度を利用して朝型勤務をする場合は、20時以降の残業は事前申請制となり、22時以降の深夜残業を禁止しました。

取り組みの結果、半年間で、総合職では月平均で約4時間、事務職では月平均で約2時間の残業削減に成功しています。従業員からは、「メリハリのある働き方が実現できた」「自己啓発に費やす時間が増えた」と、朝型勤務のメリットを実感する声が多く上がっているそうです。

参考:より効率的な働き方の実現に向けた取組について|伊藤忠商事

事例2.カルビー株式会社

カルビー株式会社では、多様で効率的な働き方を実現するため、残業削減に取り組んでいます。
たとえば、事業所ごとに「ノー残業デー」を設定し、有限の時間内で仕事を終えられるよう業務改善に取り組む、などが施策の一例です。

そのほか、朝早く出社しその分退社時間を早める「サマータイム」の導入や、「早く帰るDay」の実施など、全社で従業員が早く帰れるような雰囲気づくりをおこなってきました。
他社にはないユニークな取り組みとしては、席が固定されることによる集中力の低下を防ぐため、コンピューターが5時間ごとに座る席を指定する「ダーツ・システム」の導入が挙げられます。この結果、「時間」に対する意識づけができ、従業員の時間管理が向上しました。

加えて、在宅勤務や、自由な始業時間・終業時間の設定なども奨励しています。
同社は「長く働くことが良いことではない。短時間に効率よく働いて、成果を出すこと。」をモットーとしており、さまざまな残業削減施策に積極的な姿勢を見せています。

参考:人財育成の考え方|カルビー株式会社

まとめ

残業時間が多い状態を放置してしまうと、従業員のモチベーションや生産性は低下していくでしょう。また、自社へのエンゲージメントも下がり、離職率は上がってしまうなどの問題も生じてしまうかもしれません。そのため、残業時間の削減に取り組むことは非常に重要です。

残業削減をしていく上では、職務ごとの責任範囲の明確化や労働時間の可視化、タスク期日の明確化、業務内容・作業効率の見直しなどが効果的です。ただし、業務内容・量の調整など必要な対策を講じずに、表面的に残業時間を削っても、隠れ残業が発生してしまうおそれがあります。

残業削減にあたっては、まず本質的な部分を理解した上で、本記事で紹介したような施策をしっかりと講じることが大切です。従業員が正しく業務をマネジメントできるよう、全社で取り組んでいきましょう。

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記事監修

前田 正彦(まえだ まさひこ) 株式会社スキルアカデミー 代表取締役CEO
前田 正彦(まえだ まさひこ)
株式会社スキルアカデミー 代表取締役CEO

慶應義塾大学経済学部卒業。米国マサチューセッツ工科大学経営大学院(Sloan School of Management)修了。株式会社前田・アンド・アソシエイツ代表取締役(現職)。
株式会社NTTデータにて金融システムの開発に携わった後、 数々のコンサルティングファームにて、戦略立案から実行・定着までのプロジェクトを数多くリードしてきた。
その後人事・組織コンサルティングの必要性を痛感し、当該分野のプロジェクトを立ち上げ、戦略から人事・組織コンサルティングまで一貫したサービスを提供している。
スキルアカデミーにおいては、代表取締役CEOとしてAI人事4.0事業全体の推進をリードするほか、組織・人事・人材開発などの案件を数多くリードしている。
また組織診断・管理特性、職務等級制度・成果報酬制度などツールを開発。グローバル人事プロフェッショナル組織であるSHRM認定資格を取得。

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